(5)有機物分解促進効果


Q5−8 秋に稲わら腐熟促進のため石灰窒素を散布した場合、翌春の田植え時に窒素分を持越し、窒素過多になるようなことは起こりませんか?

A5−8 窒素の動きについて滋賀県農試の試験を紹介します。
稲わら600kgに石灰窒素25kg/10aを散布し、12月にすき込むと翌年の田植え時(5月9日)、土壌中に残る無機態窒素は稲わらだけをすき込んだ土壌とほとんど変わっておりません。これは石灰窒素の窒素が稲わらに取り込まれたためです。すき込まれた稲わらは田植え時までに重量が半分程度に減り、残存した稲わらは腐熟が進んでおります。
表5-7・8にみられるように、石灰窒素添加により稲わらの全窒素は約10%増加しております。その内訳は生育初期に効く窒素(アルカリ留出窒素)では差が少ないですが、生育中期から後期に効く窒素(アルカリ非留出窒素)では12%増となっております。この結果、土壌の窒素供給力が増加し、稲わらに取り込まれた窒素の一部は無機態窒素となり水稲に吸収されます。したがって、倒伏が起こりやすい水田では前もって基肥窒素量を減肥するのが安全です。
稲わら腐熟に石灰窒素を施用したときの長野農事試の施肥試験を紹介します。品種はコシヒカリ、3ヶ年の試験で基肥窒素1.0kg/10aを少なくした減肥区は標準施肥区と同等の収量となり、石灰窒素無施用の稲わら単用に比べ多収となっております(表5-9)。
二つの試験から、稲わら腐熟に石灰窒素20kg/10a施用した場合、基肥窒素1.0kg/10a程度の減肥は可能であると判断できます。有機態となった石灰窒素由来の窒素は2〜3年後にも徐々に無機化され累積窒素量も増加するため、穂肥についても生育状況を判断しながら、施肥量の調節を図っていく必要があります。

表5-7 稲わらすき込み土壌中の無機態窒素(滋賀県農試)
表5-7 稲わらすき込み土壌中の無機態窒素(滋賀県農試)
注) 稲わら600kg、石灰窒素25kg

表5-8 残存稲わら中の有機態窒素
表5-8 残存稲わら中の有機態窒素
注) 有機態窒素の分けかた
☆酸不溶性・・・・・・・・6N塩酸に溶けないもの・・・水稲生育中ほとんど無機化しないもの(効かない)
☆酸加水分解性・・・・6N塩酸に溶けるもの
*アルカリ溜出窒素・・・・・・無機化しやすく水稲生育初期に効くもの
*アルカリ非溜出窒素・・・・・・比較的無機化しにくく水稲生育の中・後期に効くもの


表5-9 稲わらすき込み圃場における3ヵ年の平均収量(kg/10a、長野県堀金村・1996年〜1997年)
表5-9 稲わらすき込み圃場における3ヵ年の平均収量(kg/10a、長野県堀金村・1996年〜1997年)
(長野県農事試験場)