(5)有機物分解促進効果


Q5−7 水田の土づくりとして「稲わら+石灰窒素」が指導されていますが、その狙いを教えて下さい。

A5−7 水田の土づくりには昔から堆肥が利用されていましたが、堆肥の製造や散布には多くの労力を要するため施用量が大幅に減少しています。一方、現在ではコンバインの普及により、収穫と同時に稲わらをカッターで細断して施用できるため、稲わらすき込みが増加しています。しかし、地域によっては稲わらをそのまますき込むと腐熟が遅れることにより、次のような不都合が生じます。
1. 移植時近くに稲わらをすき込むと、代かき・移植の作業がやりにくくなる。
2. 浮きわらの発生量が多く、移植後の苗を痛める。
3. 稲わら腐熟過程で土壌中の窒素が取り込まれ、水稲の初期生育が悪くなる。
4. 移植後に気温が上昇すると、稲わらが急激に分解し強還元化が進み酸素不足により、根痛み、根腐れを起こします。
稲わら腐熟度合は、気象条件やすき込み時期等で異なりますが、稲わらすき込みの弊害を回避するには田植え前までに稲わらを腐熟促進させることが大切です。このため、秋のうちに石灰窒素を併用した稲わらすき込みが各地で実証され、「稲わら+石灰窒素」により稲わらを土中で堆肥化させる方法が指導されています。
宮城県古川農業試験場(表5-5)、山形県農業試験場庄内支場(表5-6)では石灰窒素秋施用による稲わら腐熟の試験を長期間にわたり実施しています。この結果、豊作、不作に関わらず稲わら+石灰窒素は堆肥施用と同等の収量が得られ、また、地力の指標となる可給態窒素量も増加していることが分かります。
昔から「稲は地力で」と言われているように石灰窒素は水田の地力向上に役立ち、水稲の安定生産に貢献できます。

表5-5 宮城県古川農試・水稲収量(kg/a)  (S47〜H4年)

試験区

20年間の平均

作況不良年

作況良年

稲わら焼却

51.6(100)

48.3(100)

56.4(100)

稲わら(600kg/10a)

51.1(99)

47.7(99)

57.0(101)

堆肥(1t/10a)

55.8(108)

52.8(109)

60.9(108)

稲わら+石灰窒素(20kg/10a)

54.5(108)

51.7(107)

61.0(108)


表5-6 山形県農業試験場庄内支場・水稲収量(kg/a)  (S47〜S54年;品種:ササニシキ)

試験区

8年間の平均

可給態窒素(mg/100g)

稲わら無施用区

57.4(100)

15.5

稲わら+石灰窒素(20kg/10a)

63.7(111)

23.3

堆肥(1t/10a)

63.1(110)

18.6

※可給態窒素は5作後の値